会社を作ってから「許可が取れない」? 定款の目的と資本金でつまずく創業の落とし穴【2026年度版】

会社設立許認可

会社設立の手続は、インターネットの情報や書式サービスの充実で、ご自身でも十分に完走できる時代になりました。実際、定款を作り、認証を受け、登記まで終えて「会社はできました」という状態で当事務所にお越しになる方は少なくありません。
ところが、その次の段階——営業許可や免許の申請——の入口で、思わぬ足止めが起きることがあります。会社はできている。事業の準備も進んでいる。それなのに、定款の「目的」と「資本金」が許認可の要件と噛み合っていないために、設立手続の一部をやり直すことになるのです。
本コラムでは、実際にあったご相談をもとに、このミスマッチがなぜ起きるのか、起きてしまうと何を失うのか、そして設立前のどの段階で何を確認すればよいのかを解説します。

実例——準備万端の起業家に起きたこと

当事務所が営業許可取得のご相談で実際にお会いした中に、こんな例があります。

その方は、勤め先で長く経験を積み、独立のための自己資金も着実に貯めてこられました。事業計画もご自身で練り上げ、会社設立の手続も調べながら自力で完了。「あとは営業に必要な許可を取るだけなので、申請の代行をお願いします」——そんな、いわば模範的な準備をされた起業家でした。

ところが、許可申請の準備として定款と登記事項証明書を拝見したところ、2つの問題が見つかりました。

  • 定款の「目的」に、これから許可を取ろうとする事業を行うことが読み取れる記載がない
  • 資本金の額が、その許可で求められる財産上の基準に届いていない

結果として、目的の変更と増資について株主総会の手続をあらためて行い、変更登記を申請してから、ようやく許可申請に進むことになりました。設立そのものは間違いなく完了していたのに、設立の中身が許認可と噛み合っていなかったために、不必要な時間と費用がかかってしまったのです。

事例は、ご本人が特定されないよう業種・時期・金額等を変えて一般化しています。また、本文中の行政庁の運用は東京都の例です。審査の運用は申請先によって異なりますので、実際の申請にあたっては必ず申請先の手引き・窓口でご確認ください。

なぜ起きる?①——定款の「目的」と許認可の関係

なお、以下では最も多い株式会社を前提に説明します。合同会社などの持分会社でも「目的」や資本金の事前設計が重要である点は共通しますが、設立後の定款変更の手続は株式会社と異なります(持分会社は原則として総社員の同意によります。会社法637条)。

会社の定款には、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)が法律で定められており、その筆頭が「目的」です(会社法27条1号)。会社がどんな事業を行うのかを定款に掲げ、それが登記されて誰でも確認できる状態になる——これが会社制度の基本的な仕組みです。

そして許認可の審査では、「この会社は、許可を受けようとする事業を行う会社なのか」を定款・登記の目的欄で確認する運用が広く行われています。

たとえば東京都の宅地建物取引業免許では、登記事項証明書の目的欄から「宅地建物取引業を営む」ことが読み取れる記載が求められます。確実なのは「宅地建物取引業」という文言そのものか、「不動産の売買、交換、賃貸借及びその仲介」のように中核となる行為を挙げる書き方です。一方、「不動産業」のような曖昧な表現では足りないとされ、記載が不十分な場合には、理由書の提出とあわせて目的追加の変更登記を求められることになります。

落とし穴になりやすいのは、ひな形の定款をそのまま使ってしまうケースです。ひな形の目的欄は一般的な文言でできているため、そこに自分の事業を「だいたい当てはまっている」感覚で重ねてしまうと、審査側の求める記載水準に届かないことがあります。また、開業時の事業だけを目的に書き、少し先に予定している事業(許認可が必要なもの)を入れ忘れるのもよくあるパターンです。

なお、目的欄の問題は「足りない」だけではありません。逆に、行う予定のない事業まで手広く並べたり、事業内容の一貫性が見えなかったり、言葉の使い方が雑だったりすると、今度は銀行の口座開設や融資の審査で「何をする会社なのか分からない」と見られ、審査が通らないリスクが出てきます。目的欄は「広く書いておけば安心」でもないのです。

なぜ起きる?②——資本金と許認可の関係

もうひとつの落とし穴が資本金です。

現在の会社法では、資本金1円でも会社は設立できます。しかし、業種によっては、許認可の側に財産上の要件があるのです。

代表例が建設業許可です。建設業法は許可の基準のひとつとして「請負契約を履行するに足りる財産的基礎又は金銭的信用」を求めており(建設業法7条4号)、一般建設業の新規申請では通常自己資本500万円以上であること、または500万円以上の資金調達能力があることが必要とされます(資金調達能力は、金融機関が発行する預金残高証明書などで確認します)。設立直後の会社は決算がまだないため、資本金の額がそのまま自己資本の中心になります。ここで資本金を小さく設定してしまうと、残高証明で補うか、増資をするかの選択を迫られることになります。

このほかにも、営業保証金や予定資金の計画が審査される業種など、「お金の要件」は許認可の世界のあちこちに顔を出します。「いくらで会社を作るか」は、税金や見栄えの問題である前に、許認可の要件の問題でもあるのです。

やり直しに何がかかるか

「足りなければ後で直せばいい」と思われるかもしれません。たしかに直せます。ただし、タダでも一瞬でもありません。

まず手続です。設立後の定款変更は、株主総会の決議によって行います(会社法466条)。しかもこの決議は普通決議ではなく特別決議——原則として、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項。定款により、定足数を3分の1以上の範囲で別に定めたり、賛成要件を加重したりすることもできます)。株主が自分ひとりの会社であっても、株主総会としての意思決定を行い、その内容を書面(議事録)に残す必要があります。もっとも、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で提案に同意すれば、実際に総会を開催しなくても決議があったものとみなされます(会社法319条・いわゆる書面決議)。この場合も同意した書面等の保管と議事録の作成は必要で、意思決定と記録という実質は省けません。増資をする場合は、出資の払込みなどの手続がさらに加わります。

次に登記です。目的や資本金は登記事項なので、変更すれば変更登記が必要です。登録免許税は、目的変更の登記が申請1件につき3万円、増資の登記が増加した資本金の額の1,000分の7(3万円に満たない場合は3万円)かかります(国税庁タックスアンサーNo.7191)。専門家に依頼すれば、その報酬も必要です。

そして時間です。総会の準備、変更登記、そして許認可によっては登記の完了を待っての許可申請——さらに申請先から補正や追加書類を求められることもあり、この間、数週間単位で開業スケジュールが後ろにずれていきます。事務所の賃料や人件費が発生し始めていれば、遅れはそのまま資金繰りに響きます。設立時の定款に一行あれば、資本金の設定がひと桁違えば、払わずに済んだコストです。

設立前に確認したい3つのこと

このミスマッチは、設立の「前」に確認しておけば、変更登記などの追加費用と手戻りの大半を防げます。チェックすべきことは3つだけです。

  1. 開業する事業に、許認可が必要か。まずここから。判断の入口は、別コラム「その事業、許可は要る? 起業前に押さえる許認可の見極めガイド」で詳しく解説しています。
  2. その許認可は、定款の目的にどんな記載を求めるか。申請先の手引きで確認するか、行政庁に事前相談を。少し先に予定している事業があれば、その分の目的も設立時に入れておきます(目的は複数掲げられます)。
  3. その許認可に、資本金・資産の要件はあるか。あるなら、資本金の額や出資の計画に最初から織り込みます。

言い換えると、「設立の設計図(定款)は、許認可の要件から逆算して描く」——これだけで、この記事で紹介した手戻りは避けられます。

まとめ——設立と許認可は「ひとつながり」で設計する

会社設立と許認可は、制度としては別々の手続です。しかし事業の実務では、定款の目的・資本金・営業所・役員構成といった設立時の決定が、そのまま許認可の審査対象になります。別々の手続との認識で進め、それぞれの手続としては問題なく見えても、そのつなぎ目で噛み合わないことがある——今回の実例が示しているのは、その一点です。

当事務所は、創業支援を軸とする行政書士事務所として、この「つなぎ目」を意識した設計からお手伝いしています。

設立と許認可を「ひとつながり」で。創業のご相談を承ります

「これから会社を作るが、許可が取れる定款になっているか不安」「もう設立してしまったが、このまま許可申請に進んで大丈夫か確認したい」——東京・千代田区のVille行政書士事務所では、創業コンサルティングと法人設立サポートで、定款の目的・資本金の設計から許認可までを一体でお手伝いします。設立登記は共に合同事務所を構える弁護士が受任し、窓口ひとつで進められます。すでに設立済みの方には、現状の定款を拝見し、最小の手数でリカバリーする道筋をご提案します。

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この記事を書いた人

村上 聡(Ville行政書士事務所 代表)

特定行政書士・宅地建物取引士。市役所勤務、法律事務所事務局長、不動産会社代表取締役等を経て開業。創業支援を軸に、法人設立・建設業許可・宅地建物取引業免許・古物商許可・運送事業など、中小・小規模事業者の許認可と経営サポートを手がける。

参考資料

【免責事項】本記事は2026年7月19日時点の法令・運用に基づく一般的な解説です。許認可の要件や審査の運用は、申請先・時期・個別事情によって異なります。実際の設立・申請にあたっては、必ず申請先の窓口・手引き、または専門家にご確認ください。

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