行政書士として開業のご相談を受けていると、相談者の方が「え、この事業って許可が要るんですか?」と驚かれる場面に定期的に出会います。
困ったことに、そう気づかれるタイミングはたいてい、物件を契約した後、内装工事を発注した後、ひどい場合には営業を始めた後です。この順番を間違えると、余計な出費と数か月単位の時間のロスが発生します。逆に言えば、開業準備の一番最初に「許認可の要否」を確認しておくだけで、これらのリスクはほぼ避けられます。
本コラムでは、開業率の統計から見た代表6業種の許認可と、相談の現場で「知らなかった」が特に多い意外な6業態、そして自分の事業に許可が必要かを見極める手順を、実務の目線で解説します。
なぜ「開業前」の確認が決定的に重要なのか
無許可営業に罰則があること自体は、多くの方が何となくご存じです。たとえば飲食店を無許可で営業すれば2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金(食品衛生法82条)、建設業許可を受けずに500万円以上の工事を請け負えば3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(建設業法47条)が法定されています。
ただ、実務家として本当にお伝えしたいのは、罰則よりも次の2点です。
「後から取ればいい」が通用しなくなることがある。多くの業法には欠格要件があり、罰金刑以上を受けると一定期間(多くは5年)許可が取れなくなります。無許可営業が発覚して処罰されると、「これから許可を取って正々堂々やろう」という道そのものが閉ざされるのです。事業の再起に関わるのはむしろこちらです。
資金調達の段取りが崩れる。日本政策金融公庫の創業融資や自治体の制度融資では、許認可が必要な業種について許可証(または申請状況)の確認が入ります。融資実行のタイミングと許可取得のタイミングが噛み合わないと、「物件の契約金は払ったが、融資が下りるまで営業できない」という宙ぶらりんの期間が生まれます。私が創業支援でスケジュール表を作るときは、必ず許認可の標準処理期間から逆算して組み立てます。それくらい、許認可は創業計画の「時間軸の背骨」になります。
開業率統計から見る 許認可が必要な代表6業種【王道編】
まず「そもそもどんな業種で起業する人が多いのか」を統計で押さえておきます。2025年版中小企業白書によると、業種別の開業率は「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」「情報通信業」が上位です。また、日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、融資を受けて開業した人の業種はサービス業27.7%、医療・福祉16.7%、飲食店・宿泊業14.5%の順でした。
つまり、起業ボリュームの大きい業種の多くが、実は許認可業種と重なっています。ここでは6業種に絞り、根拠となる法律と、実務で本当につまずきやすいポイントを解説します。
1. 飲食店・宿泊業 ― 「内装工事の前に保健所」が鉄則
飲食店の営業には、食品衛生法55条に基づく都道府県知事の許可が必要です。店舗を構える形態だけでなく、テイクアウト専門やデリバリー専門でも原則として許可の対象です。
この分野で実務上いちばん多い失敗は、保健所への相談より先に内装工事を進めてしまうことです。シンクの数、手洗い設備の位置と規格、区画の取り方などの施設基準は、保健所ごとに運用の細部が異なります。工事完了後の検査で基準不適合を指摘されると、できあがった内装を壊して手直しすることになり、数十万円単位の追加費用も珍しくありません。図面の段階で保健所に持ち込んで相談する。この一手間が、開業予算を守る最も確実な方法です。
2. 医療・福祉(介護事業) ― 開業日が「月単位」でしか動かせない
訪問介護や通所介護などの介護保険サービスは、介護保険法79条に基づく都道府県知事等の「指定」を受けなければ報酬を請求できません。障害福祉サービスも同様に指定制です(障害者総合支援法36条)。
介護分野の特徴は、開業日を自由に選べないことです。指定は多くの自治体で毎月1日付とされ、申請の締切はその1〜2か月前。つまり書類が1日遅れると、開業が丸1か月遅れます。さらに指定の前提として法人格が必要で、人員基準(管理者・サービス提供責任者等の資格者の確保)は採用活動そのものです。「法人設立→人材確保→物件→指定申請」という工程が数珠つなぎになっているため、この業種こそ逆算スケジュールの精度が問われます。
3. 生活関連サービス(美容・理容) ― 「まつエク」は美容師免許の世界
美容室・理容室の開設は保健所への開設届が必要で、作業面積や消毒設備などの構造設備基準があります。居抜き物件でも開設検査は受け直しになるので、「前もサロンだったから大丈夫」と思い込まないことです。
この分野で相談が多いのは、むしろ周辺業態との線引きです。ネイルサロンやエステサロンは原則として許認可不要ですが、まつ毛エクステの施術は美容行為とされ、美容師免許が必要です。「ネイルとまつエクのセットメニュー」を無資格で始めてしまう例が後を絶ちません。メニュー構成を決める段階で、施術ごとに資格の要否を仕分けしておく必要があります。
4. 建設業 ― 勝負は「過去の書類が残っているか」で決まる
500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事を請け負うには、建設業法3条に基づく許可が必要です。条文はただし書で「政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない」と定めており、この裏返しとして500万円ラインが基準になっています。
建設業許可の実務で最大の山は、要件そのものではなく証明です。経営業務の管理責任者(経管)には経営経験が、営業所の専任技術者(専技)には資格または実務経験が求められますが、これを過去の確定申告書・工事請負契約書・注文書などの書類で何年分も遡って立証しなければなりません。腕は一流なのに書類が残っておらず、前の勤務先の協力も得られず、要件を証明できない――独立したての職人さんのご相談で、これが一番切ないパターンです。独立を考え始めた時点(できれば退職前)から、経験を証明できる書類を確保しておく。これだけで許可取得の難易度が大きく変わります。
5. 不動産業(宅建業) ― 免許が下りても、すぐには営業できない
不動産の売買・仲介を業として行うには、宅地建物取引業法3条に基づく免許が必要です。要件の柱は、事務所ごとの専任宅地建物取引士の設置(従業者5名につき1名以上)、営業保証金、事務所の独立性です。
営業保証金は本店1,000万円の供託が原則ですが、実務では保証協会に加入して弁済業務保証金分担金(60万円)を納める方法がほぼ標準です。ここで注意すべきは時間軸で、免許通知が来ても、保証協会の入会手続と供託の手続が済むまでは営業を開始できません。申請から営業開始まで、トータルでおおむね2〜3か月を見込んでおくのが現実的です。
また、自宅兼事務所やシェアオフィスでの開業を考えている方は、事務所の独立性(他の空間と明確に区画されているか)で引っかかることが多いため、物件を契約する前に免許行政庁の基準を確認してください。なお、専任宅建士の兼業の取扱いは令和6年11月に東京都で運用が見直されるなど動きのある論点なので、開業時点の最新運用を確認することをお勧めします(筆者は宅建士登録もしているため、このあたりの実務感覚も踏まえてご相談に対応しています)。
6. 小売業(古物・EC) ― 「ネット転売だから関係ない」が一番危ない
中古品を仕入れて販売する営業には、古物営業法3条に基づく都道府県公安委員会(窓口は警察署)の許可が必要です。古着・家電・書籍・時計・自動車・トレーディングカードなど、対象となる「古物」は13品目に分類され、範囲は相当に広いです。
見落としの典型は次のような業態です。
- メルカリ・ヤフオク等での継続的な仕入れ転売(自分の不用品を売るだけなら不要)
- リサイクルショップ・買取専門店
- 中古車の買取・販売
「実店舗がないから」「ネットだけだから」は理由になりません。営利目的で反復継続して中古品を仕入れて売るなら、原則として許可が必要です。ECサイトで販売する場合はサイトURLの届出も求められます。標準処理期間は40日程度なので、ECモールの出店審査と並行して段取りしておくと開業がスムーズです。
「え?それも許認可必要だったの?」意外な6選【落とし穴編】
ここからは、相談の現場で「知らずに始めてしまいました」が特に多い業態です。副業や小さく始めるビジネスほど、この落とし穴にはまりやすい傾向があります。
1. 自家製お菓子・ジャム・手作り石鹸の販売 ― 家庭のキッチンでは許可が取れない
ハンドメイドマルシェやSNS経由で自作の食品を売る。ごく身近な光景ですが、菓子やジャム等を製造販売するには食品衛生法55条の営業許可(菓子製造業等)が必要です。そして重要なのは、自宅の家庭用キッチンのままでは施設基準を満たせないことです。住居部分と区画された専用の調理場が求められるため、「売れてきたから許可を取ろう」と思った時点で、設備投資の問題に直面します。マルシェ主催者から許可証の提示を求められて初めて気づく、というパターンが実に多い分野です。
手作り石鹸や化粧品はさらにハードルが上がります。薬機法12条の化粧品製造販売業許可等が必要で、責任技術者の設置など個人が趣味の延長で取得するのは相当に難しい水準です。「雑貨として売ればよい」という俗説がありますが、人の肌に使うことをうたえば化粧品の規制対象になり得ます。この分野は始める前に必ず専門家か薬務担当部署に確認してください。
2. キッチンカー・移動販売 ― 車両の許可と「仕込み場所」の二重チェック
キッチンカーは車両ごとに保健所の飲食店営業許可が必要です。加えて見落とされがちなのが仕込み場所の問題で、車内で完結できない仕込み(下ごしらえ)は、別途許可を受けた施設で行う必要があります。「自宅で仕込んで車で売る」は原則アウトです。さらに公道で営業するなら道路使用許可(道路交通法77条)、イベント出店なら主催者経由での許可確認と、関門が複数あります。出店エリアの保健所に営業予定地を伝えて相談するのが最短ルートです。
3. ペットシッター・ペットホテル ― 「預かる」だけで登録業種
ペットの世話を業として行う場合、動物の愛護及び管理に関する法律10条に基づく第一種動物取扱業の登録が必要です。販売(ペットショップ)だけでなく、保管(ペットホテル・シッター・トリミングサロン)、訓練(ドッグトレーナー)、展示(動物カフェ)まで広く対象になります。登録には事業所ごとに動物取扱責任者を置く必要があり、その要件として実務経験や資格が求められるため、「動物が好きだから」だけでは参入できない設計になっています。開業構想の早い段階で、自分が責任者要件を満たせるかを確認しておくべき業種です。
4. 軽貨物配送 ― 開業ハードルが低いからこそ「届出漏れ」が多い
軽バンや軽トラックで有償で荷物を運ぶ事業は、貨物自動車運送事業法36条に基づく運輸支局への届出(貨物軽自動車運送事業)が必要です。届出が受理されると事業用の黒ナンバーを取得して営業します。宅配需要の拡大で参入者が急増した分野ですが、手続自体は比較的シンプルなため、逆に「届出制度の存在自体を知らずに白ナンバーのまま運んでいた」という相談が目立ちます。委託元との契約前に、届出と黒ナンバー取得を済ませておきましょう。
5. トランクルーム・レンタル収納 ― 契約書の建て付けで法律が変わる
他人の物品を有償で預かり保管する事業は、倉庫業法3条の登録(倉庫業)の対象になり得ます。一方、単に収納スペースを貸すだけで保管責任を負わない形態(賃貸借型のレンタル収納)であれば、倉庫業には該当しません。つまりこの業態は、契約書をどう設計するかで適用される法律が変わるのです。利用規約に「荷物をお預かりします」と書けば寄託(=倉庫業側)に傾き、「スペースを貸すだけで保管責任は負いません」と明確にすれば賃貸借に傾く。事業スキームと契約書面の整合が問われる、行政書士の腕の見せどころでもある分野です。
6. 不用品回収・遺品整理 ― この業界の許可は「取れない」ことを前提に設計する
家庭から出る不用品(ゴミ)を有償で収集運搬するには、廃棄物処理法7条に基づく市町村長の一般廃棄物収集運搬業許可が必要です。ここに実務上の重大な罠があります。産業廃棄物収集運搬業の許可(同法14条)を持っていても、家庭ゴミは運べません。家庭ゴミは「一般廃棄物」であり、産廃許可ではカバーされないからです。
さらに厄介なことに、一般廃棄物の許可は市町村の処理計画との適合が要件とされ、新規の許可がほとんど下りない自治体が多数というのが現実です。ではどうするか。実務では、廃棄物の収集運搬は市町村の許可業者と提携し、自社は買い取れる品物の買取(古物商許可)や遺品整理の役務部分を担う、といったスキーム設計で適法性を確保するアプローチを取ります。この業態を検討している方は、「許可を取る」ではなく「許可がなくても適法に回る事業設計にする」という発想で、早めに専門家へ相談することをお勧めします。
補足:業種を問わず出てくる「場面別の許可」
ここまでは業種単位の話でしたが、業種にかかわらず営業のやり方によって必要になる許可もあります。
- 道路占用許可(道路法32条)・道路使用許可(道路交通法77条):店先へのはみ出し陳列や看板設置、イベントでの道路利用など
- 屋外広告物の許可・届出:都道府県・市区町村の条例に基づく看板規制
「業種の許可は取ったのに、看板で条例違反」という事例は実際にあります。このテーマは別コラムで詳しく解説する予定です。
【逆パターン】許認可が要らない業種の「別の落とし穴」
一方で、開業率上位の業種には許認可が不要なものもあります。Web制作・システム開発・各種コンサルティング・デザイナーなどは、原則として許認可なしで開業できます(電気通信事業に該当する場合の届出等、例外はあります)。家事代行も原則不要ですが、人材をあっせんする形になると職業安定法の有料職業紹介事業許可の世界に入ります。
ただし、ここで強調したいのは「許可不要=規制なし、ではない」ことです。BtoC取引なら特定商取引法の表示義務、広告には景品表示法、受託開発なら下請法、顧客情報を扱えば個人情報保護法。許認可のない業種は参入が容易な分、こうした行為規制の側でつまずく相談が多い印象です。契約書と利用規約の整備は、許認可不要業種にとっての「許認可」だと考えてください。
自分の事業に許認可が必要か ― 見極めの3ステップ
ステップ1:事業を「業法の言葉」に翻訳する。「中古品を売る」→古物営業、「荷物を運ぶ」→貨物運送、「人の物を預かる」→倉庫業・動物取扱業。日常語のままでは法律に引っかかりません。自分の事業を「何を・誰に・どう提供するか」に分解し、法律用語に置き換えるのが出発点です。
ステップ2:法令と条例の両方を確認する。法律はe-Gov法令検索で確認できます。ただし実務では条例と行政庁ごとの運用が結論を左右することが多く、ここが独学の限界になりがちです。
ステップ3:管轄行政庁に事前相談する。保健所・警察署・都道府県庁・運輸支局など、窓口は業種ごとに異なります。相談のコツを3つ:①事業内容を1枚にまとめた概要書と(施設があるなら)図面を持参する、②相談日時・担当者名・回答内容を必ずメモに残す、③グレーな回答だった論点は言い回しごと記録する。行政の窓口回答は担当者により微妙に揺れることがあり、後日「言った言わない」を防ぐ材料になります。
申請準備で見落としがちな4つの共通要件
業種ごとに制度は違っても、要件の型はだいたい共通しています。私が初回相談で必ず確認するのも、この4点です。
1. 人の要件(資格者):経管・専技(建設業)、専任宅建士(宅建業)、食品衛生責任者(飲食)、動物取扱責任者(ペット業)など。その人は本当に要件を満たすか、証明書類はあるか、いつから常勤できるかまで詰めて初めて要件充足です。
2. 場所の要件(事務所・施設):独立性、構造設備基準、レイアウト。物件の賃貸借契約を結ぶ前に基準と照合するのが鉄則です。契約後に「この物件では許可が取れない」と判明するのが、金額的に最も痛い失敗です。
3. お金の要件(財産的基礎):建設業の自己資本500万円、宅建業の営業保証金等。創業融資の計画と絡むため、資金計画に最初から織り込みます。
4. 人的欠格要件:一定の前科、破産(復権未了)等。見落としがちなのは役員・法定代理人まで審査対象になる点で、法人の役員構成を決める前に全員分を確認しておく必要があります。
最後に ― 許認可は「事業設計の一部」です
許認可の実務に携わっていて実感するのは、許認可は開業手続の「最後の事務作業」ではなく、事業計画・物件選び・人材採用・資金調達のすべてに絡む設計条件だということです。だからこそ、確認は早いほど効きます。構想段階なら選択肢はいくらでもありますが、物件契約後・工事後・営業開始後と進むほど、打てる手は減り、コストは増えます。
開業前の許認可診断、承ります
「自分の事業に許可が要るのか判断がつかない」「複数の許認可が絡みそうで、どの順番で進めるべきか整理したい」「開業日から逆算したスケジュールを組みたい」――そうした段階のご相談こそ歓迎します。東京・千代田区のVille行政書士事務所では、業種を問わず開業前の許認可診断からスケジュール設計、申請までを一貫してサポートしています。
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参考資料
- 2025年版中小企業白書(中小企業庁)第8節「開業、倒産・休廃業」
- 中小企業白書 付属統計資料 表11「業種別の開廃業率の推移」
- 日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」
- 条文の引用は e-Gov 法令検索 に基づく(2026年7月時点の現行法令)
【免責事項】本記事は執筆時点の法令・運用に基づく一般的な解説です。個別の許認可の要否・要件は事業内容や自治体の運用により異なりますので、必ず管轄行政庁または専門家にご確認ください。


















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