会社を作る前に、市区町村の窓口へ——「特定創業支援等事業」で登録免許税が半額になる【2026年度版】

会社設立創業支援

会社を設立するとき、登記の際に納める税金があります。登録免許税です。株式会社なら最低15万円、合同会社なら最低6万円。資本金が小さくても、この額を下回ることはありません。
ところが、会社を作る「前」に、市区町村が用意している創業支援を受けて証明書を取得しておくと、この税額が半分になります。株式会社なら7万5千円、合同会社なら3万円です。
制度の名前を特定創業支援等事業といいます。ご存じない方が多い制度ですが、問題は知名度そのものではありません。登録免許税の軽減は、設立が済んでしまうと、後から遡って受けることができないという点にあります。
これは制度の作りから来ています。本コラムでは、その理由と、実際にどの順番で動けばよいのかを整理します。

「特定創業支援等事業」とは何か

市区町村が、商工会議所や金融機関などの支援機関と連携して創業支援等事業計画を作り、国の認定を受けるしくみがあります(産業競争力強化法第127条)。この計画に書かれた支援事業のうち、特に創業の促進に寄与するものとして経済産業省令で定めるものが、特定創業支援等事業です(同法第2条第34項)。

では、その省令には何と書かれているか。創業者が次の4つの知識を「全て」習得できるように支援する事業であって、当該創業者に対して「継続的に」行われるものとされています(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第8条)。

  1. 経営に関する知識
  2. 財務に関する知識
  3. 人材育成に関する知識
  4. 販売の方法に関する知識

実際には、創業スクール・創業セミナー・窓口での個別相談といった形をとります。市区町村の窓口とは限らず、計画に位置づけられた商工会議所・金融機関・創業支援機関などが実施することもあります。

省令の本文に回数や期間までは書かれていませんが、中小企業庁のガイドラインQ&A集では、セミナー等については原則として4回以上かつ1か月以上をかけて実施する支援、専門家が事業者に伴走して個別に助言する形の支援(ハンズオン支援と呼ばれます)については1か月以上の継続的な支援とされています。

つまり、条文 → 国のガイドライン → 市区町村ごとの具体的なメニューという三段構えです。名称も日程も受講方法も市区町村ごとに違いますので、お住まい・開業予定地の市区町村の案内で確認してください。

もうひとつ、全国どこでも受けられる制度ではありません。中小企業庁の公表によれば、創業支援等事業計画は令和8年6月25日現在で1,414件(1,580市区町村)が認定されています。宮城・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川など25県ではすべての市町村が認定を受けていますが、裏を返せば、認定を受けていない市区町村もあるということです。まず自分の市区町村が該当するかを確認するところから始まります。

受けると何が変わるか①──設立登記の登録免許税が半分になる

会社の設立登記にかかる登録免許税は、資本金の額の1000分の7です。ただし、これで計算した税額が株式会社なら15万円、合同会社なら6万円に満たないときは、その額になります(登録免許税法第9条、別表第一第二十四号(一)イ・ハ)。

資本金1,000万円で計算すると7万円ですから、多くの創業者は下限額のほうに当たります。つまり実際には「株式会社15万円・合同会社6万円」からのスタートです。

これが、特定創業支援等事業による支援を受けて設立した場合には、1000分の3.5、下限額は株式会社7万5千円・合同会社3万円になります(租税特別措置法第80条第3項第1号・第2号)。率も下限額も、ちょうど半分です。

ただし、次の条件があります。

  • 個人が設立する会社であること。すでに個人で事業を営んでいる方が法人成りする場合も対象になりますが、創業から5年を経過した個人事業主は対象外です
  • 設立するのが株式会社または合同会社であること(合名会社・合資会社・一般社団法人・一般財団法人などの設立や、すでにある会社の組織変更は対象になりません)
  • 支援を受けた市区町村と同じ市区町村で創業すること(複数の市区町村が連携して支援している場合は、そのいずれの市区町村で創業しても対象になります)
  • 令和9年3月31日までに登記を受けること

なお、軽減されるのは登録免許税だけです。株式会社の場合に必要な定款認証の手数料は、この軽減の対象ではありません。

登記の申請そのものは、行政書士が代理できる手続ではありません。当事務所では、共に合同事務所を構える弁護士が受任し、窓口ひとつでお手続きいただけるようにしています。

受けると何が変わるか②──創業前から資金の話を進められる

効果は税額だけではありません。

創業関連保証を、より早い段階から検討できる

創業時の資金調達には、信用保証協会の保証を付けた融資という選択肢があります。担保を付けない保証は、1人の事業者について8,000万円までとされていますが、創業関連保証には、この枠とは別に3,500万円が用意されています(産業競争力強化法第129条第1項)。

まず正確なところを申し上げると、この別枠は創業関連保証という制度そのものの仕組みであって、支援を受けた人だけに与えられるものではありません。

支援を受けることで変わるのは、使える時期のほうです。創業関連保証は、まだ事業を始めていない人も対象になりますが、通常は「1月以内(会社を設立して始める場合は2月以内)に創業する具体的な計画を有する」ことが必要です。この期間が、認定特定創業支援等事業の支援を受けた人については「6月以内」に延びます(同法第2条第32項第1号・第3号)。

言い換えれば、準備段階の早いうちから資金の話を進められるということです。会社の形も決まっていない時期に資金の相談ができるかどうかは、創業計画の立てやすさに直結します。

日本政策金融公庫の融資でも扱いが変わる

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」では、特別利率の対象となる方のひとつとして、「創業塾や創業セミナーなど(産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業)を受け、認定市区町村が発行する証明書を取得した方(※有効な証明書の場合に限る)」が挙げられています。

利率は情勢によって変わりますので、具体的な数字は公庫の最新の案内でご確認ください。ここで押さえていただきたいのは、ひとつの支援を受けたことが、登録免許税の軽減だけでなく、信用保証でも公庫の融資でも意味を持ってくるという点です。

税と保証だけが目的ではありません

ここまで金額の話を続けましたが、特典のほうを目的にしてしまうと、この制度は少しもったいないというのが当事務所の考えです。

先に見たとおり、この支援は経営・財務・人材育成・販売の4分野を、継続的に学ぶ設計になっています。裏を返せば、資金繰りの見方、値段の付け方、人を雇うときに必要になること——開業後に必ず一度は向き合うことを、事業を始める前に一度通っておけるということです。

開業したあとは、商品やサービスそのものだけでなく、こうした足元の課題にも向き合うことになります。

税額が半分になるのは、結果として付いてくるもの——その順序で考えていただくのがよいと思います。

なぜ「設立の前」でなければならないのか

ここが本コラムの核心です。

支援を受けたら、そのことについて市町村長の証明を受けます(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第7条第1項)。証明の申請書に書くのは次の4項目です(同条第2項)。

  1. 証明を受けようとする者の氏名又は名称及び住所(法人はその代表者の氏名)
  2. 支援を受けた認定特定創業支援等事業の内容及び期間
  3. その支援を受けて行う事業の内容
  4. その事業の開始時期

そして、登録免許税の軽減を受けるためには、その証明に係る書類を「登記の申請書に添付」しなければならないと定められています(租税特別措置法施行規則第30条の2第6項)。

添付書類だからです。登記の申請書に付けて出すものである以上、登記が完了した後になってから証明書を用意しても、その設立登記に適用することはできません。

順序は、①支援を受ける → ②証明書を受け取る → ③設立登記を申請する。この順でなければ、税額は変わりません。

実際の段取りと、どれくらい時間がかかるか

実務としては、次の流れになります。

  1. 市区町村の窓口・商工会議所等に相談する——自分の市区町村が認定を受けているか、どのメニューが特定創業支援等事業に当たるかを確認します
  2. 支援を受ける——ここに時間がかかります。原則として4回以上・1か月以上の継続的な支援が要件とされているため、1日だけの説明会を受ければ足りる制度ではありません
  3. 証明書の交付を申請する——上記4項目を記載した申請書を提出します。交付にも日数がかかります
  4. 定款の作成・出資・設立登記の準備——事業目的や資本金の額は、許認可の要件とも関係します
  5. 登記を申請する——申請書に証明書を添付します

つまり、できれば設立の数か月前から、余裕をもって動き始めるのが安全ということです。「来月には登記したい」という段階では、市区町村の開催日程や証明書の交付にかかる日数によっては、間に合わない可能性が高くなります

なお、支援のメニュー・回数・期間・手数料は市区町村ごとに異なります。また、証明書には有効期限が設けられています(中小企業庁のQ&A集は、その理由として、租税特別措置法の適用期限があることと、創業5年未満の個人を対象とする軽減措置を厳格に運用する必要があることを挙げています)。この点も、必ず窓口でご確認ください。

まとめ——創業は「順序」で費用が変わります

株式会社で7万5千円、合同会社で3万円。金額そのものは、事業全体から見れば大きくないかもしれません。けれども創業期の数万円は重いものですし、同じことをしていても、順番を変えるだけで差が出るという点に、この制度の性格がよく表れています。

すでに会社を設立してしまった方へ。残念ながら、済んでしまった設立登記に遡って軽減を受けることはできません。ただし、特定創業支援等事業による支援を受けて要件を満たせば、創業から5年を経過していない方も証明書の交付を受けられます(産業競争力強化法第2条第32項第2号・第4号、同施行規則第7条第1項)。資金調達の場面ではなお意味を持つことがありますので、諦める前に窓口にご確認ください。

そして、これから設立される方へ。会社設立で費用が変わる要素は、登録免許税だけではありません。事業の目的や資本金の額の決め方が、後の許認可の要件と噛み合わないために、設立し直しに近い手戻りが起きることもあります(この点は「その事業、許可は要る?」「会社を作ってから「許可が取れない」?」で解説しています)。

創業は、「何を作るか」より先に「どの順で進めるか」で費用が変わります。

設立の前に、順序を組み立てるところからご相談ください

「自分の市区町村が対象かどうか調べてほしい」「支援を受けてから設立するとしたら、いつから動けばよいか」「事業目的と資本金を許認可の要件に合わせて決めたい」——東京・千代田区のVille行政書士事務所では、会社設立をその後の許認可・資金調達まで含めた段取りとして設計し、書類の専門家としてサポートします。登記の申請は、共に合同事務所を構える弁護士が受任しますので、窓口ひとつでお手続きいただけます。費用の目安は報酬額表をご覧ください。

初回相談無料・オンライン対応可

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この記事を書いた人

村上 聡(Ville行政書士事務所 代表)

特定行政書士・宅地建物取引士。市役所勤務、法律事務所事務局長、不動産会社代表取締役等を経て開業。創業支援を軸に、法人設立・建設業許可・宅地建物取引業免許・古物商許可・運送事業など、中小・小規模事業者の許認可と経営サポートを手がける。

参考資料

【免責事項】本記事は2026年8月28日時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。特定創業支援等事業の内容・回数・期間・手数料、証明書の有効期間、市区町村の認定状況は、市区町村ごとに異なり、また変わることがあります。登録免許税の軽減措置には適用期限があります。個別の適用の可否は、必ず市区町村の窓口・法務局または専門家にご確認ください。

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