セーフティネット保証1号は使うべきか——取引先が倒産したとき、経営者が判断すべき5つのこと

資金繰り経営判断

取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったとき、連鎖倒産を防ぐための制度がセーフティネット保証1号です。制度の中身と認定申請の進め方は、別のコラム「決済代行会社の破綻で売上が入金されない?」で解説しました。
ただ、「申請できる」ことと「使うべき」ことは別です。1号は補助金ではなく信用保証——つまり借入れですから、使うかどうか、いくら借りるかは経営判断になります。制度の説明はどこにでもありますが、判断の材料はあまり語られません。
本コラムでは、取引先の倒産に直面した経営者が判断すべき5つのことを順に整理します。あわせて、千代田区の事業者が区の融資あっせん制度と組み合わせる方法も、区の案内〈令和8年度版〉に基づいて具体的に書きました。

まず結論——1号は「借りやすくする制度」であって「もらう制度」ではない

セーフティネット保証1号は、信用保証協会の保証です。補助金でも給付金でもありません。融資を受ければ返済義務が生じます。まずこの一点を押さえてください。

では何のための制度か。取引先の倒産という、自社の経営努力とは関係のない理由で資金が回らなくなったとき、「借りられる状態」を作るための制度です。通常の融資と違うのは、別枠(通常の保証枠とは別に新たな枠が立つ)・100%保証(金融機関が回収リスクを負わない)・政策的に低い保証料率の3点です。

裏を返せば、返済の原資が見込めないのであれば、借入れは問題を先送りするだけです。売上そのものが構造的に落ちている、債務がすでに返済能力を超えている——そうした状況なら、借入れより先に事業の立て直しや法的整理の検討が必要で、これは弁護士・税理士の領域です。当事務所でも、そう判断すればそのようにお伝えします。

そのうえで、「使う」と決めた経営者が考えるべきことを、5つに分けて説明します。

【判断1】なぜ「別枠・100%保証」が効くのか

別枠——既存の保証枠を使い切っていても借りられる

信用保証協会の一般保証には、普通保証2億円・無担保保証8,000万円という限度額があります。すでに保証付き融資を受けていれば、その分だけ枠は減っています。

1号の認定を受けると、この一般保証とは別枠で、普通保証2億円以内・無担保保証8,000万円以内の枠が立ちます(経済産業省の公表資料による)。意味は2つあります。

  1. 既存の枠を使い切っていても、新たに借りられる
  2. 既存の枠を温存したまま、今回の資金を調達できる——将来の設備投資や別の資金需要に備えて枠を残せる

2つめは見落とされがちですが、資金繰りを年単位で考えるなら重要な点です。

100%保証——ただし「無料」という意味ではない

通常の保証付き融資には責任共有制度が適用され、信用保証協会が8割、金融機関が2割のリスクを負います。ところが経営安定関連保証のうち1号から4号まで及び6号は、この責任共有制度の対象外——保証協会が10割を保証します(東京信用保証協会「信用保証料率の体系」)。

金融機関から見れば、返済が滞っても全額が保証される融資です。通常なら慎重になる局面でも、話が前に進みやすくなります。これが1号の実質的な効き目です。

「1号」「5号」という号数について——自社はどれに当たるのか
セーフティネット保証の号数は、中小企業信用保険法第2条第5項の号数(1号〜8号)です。何が原因で資金繰りが苦しくなったかによって入口が分かれており、取引先の倒産が1号(本コラムのテーマ)、災害等が4号、自社の属する業種全体が不振で売上が落ちた場合が5号です。
ここで5号の「不況業種」という言い方に注意してください。これは国(経済産業大臣)が業種を指定するしくみです。「うちの業界は不景気だ」という自己判断ではなく、指定された業種に自社の業種が入っているかどうかで決まり、そのうえで売上高や取引数量の減少といった要件を満たす必要があります。
取引先が倒産して売掛金が回収できないという場面なら、見るべきは1号です。本コラムはその前提で書いています。

ただし注意点が2つ。5号(不況業種)だけは責任共有制度の対象で保証は8割です。同じセーフティネット保証でも号によって扱いが違うので、「セーフティネットだから10割」と思い込まないでください。そして100%保証は「無料」という意味ではありません。融資を受ける際には信用保証協会に信用保証料を支払います。

【判断2】いくら借りるか——「未入金額」=「必要額」ではない

実務でいちばん誤解されるのがここです。回収できなくなった売掛金が800万円だったとして、借りるべき額が800万円とは限りません。

まず向こう3か月から6か月の資金繰り表を作り、「入るはずだった入金がないことによって、いつ、いくら足りなくなるのか」を出します。この不足額こそが、借入れで埋めるべき金額です。

  • 未入金が800万円でも、そのうち500万円を翌々月以降の支払いに充てる予定だったのなら、当座に必要なのは300万円かもしれません
  • 逆に、未入金が300万円でも、仕入代金の支払いと納税が重なれば、必要額はそれを上回ることがあります

借りすぎれば返済負担だけが残り、少なすぎれば二度手間になります。別枠で2億円の保証枠が立つといっても、それは「借りられる上限」であって「借りるべき額」ではありません。

なお、認定申請書に書く「回収困難な額」と、融資の申込額は別の数字です。認定は「回収が困難であるため経営の安定に支障を生じている」ことの確認であり(中小企業信用保険法第2条第5項第1号)、いくら借りるかは金融機関との相談で決まります。

【判断3】自治体の上乗せ制度と組み合わせられないか(千代田区の例)

1号の認定を取ったら、それだけで終わりにしないでください。多くの自治体には独自の融資あっせん制度があり、認定の取得を条件に融資条件が優遇される特例が用意されていることがあります。当事務所のある千代田区を例に見てみます。

例えば、千代田区の商工融資あっせん制度には「経営安定化支援特例措置」があり、中小企業信用保険法第2条第5項第1号から第4号まで又は第6号の認定を取得した事業所が対象です(=1号の認定を受けた方が該当します)。営業資金・設備資金・小規模企業特別資金の3つを利用する場合に、次のように優遇されます。

  • 本人負担の利率が下がります。営業資金(融資限度額2,500万円以内・名目利率2.3%以下)なら、代表者が区民の場合は通常「1.3%以下」のところ0.8%以下、区民以外(代表者区分「一般」)は通常「1.8%以下」のところ1.5%以下になります
  • 通常はつかない信用保証料の補助が「全額補助」になります。営業資金・設備資金は通常、保証料補助の対象外です。ここが最も大きい違いです
  • 特例措置を使った資金は資金名に「経営」と付き、責任共有制度の対象除外(保証協会の保証は10割)となります

一方、条件も押さえておく必要があります。

  • 区内で引き続き1年以上、事業を営んでいること。本店登記が区内にあっても営業実態が1年以上区内にない、または確認できない場合は利用できません(バーチャルオフィスは対象外と明記されています)
  • 最近1年間に納付すべき事業税・住民税を完納していること
  • 資金使途がはっきりしていること。税金の支払い・債務の補填・生活資金・投機資金などは対象外です
  • 各特例措置は併用できません(災害対策特例措置などとの重複利用は不可)
  • 保証料の補助は融資実行後おおむね3か月程度で金融機関を通じて振り込まれます。申込時点で払わなくてよいという意味ではありません

以上は「千代田区商工融資あっせん制度のご案内〈令和8年度版〉」(2026年8月10日閲覧)によります。制度は年度ごとに見直されますので、申込み前に必ず区の窓口でご確認ください。

そして、これは千代田区に限った話ではありません。他の区市町村にも同種の制度があります。認定申請で市区町村の窓口へ行くのですから、融資あっせんの担当にもあわせて相談してください。認定を取っただけで帰るのは、もったいない使い方です。

【判断4】落とし穴を踏んでいないか——7つの注意点

  1. 認定書は30日で失効します。認定日から30日以内に金融機関または信用保証協会へ保証の申込みが必要です(複数の自治体が明記)。だから先に金融機関と話を進めてから認定を取るのが実務の順序です
  2. 認定は融資の決定ではありません。認定の後に信用保証協会と金融機関の審査があります。認定書は入口の切符であって、融資の約束ではありません
  3. 100%保証でも債務は消えません。返済できなくなれば保証協会が代位弁済しますが、その後は保証協会への返済義務(求償権)が残るだけです
  4. 信用保証料がかかります。低い料率とはいえ費用です。資金繰り表に織り込んでください
  5. 指定期間には終期があります。1号は倒産した事業者ごとに指定期間が定められ、その期間内に認定申請をしなければなりません。終わりから逆算して動いてください
  6. 経営セーフティ共済に加入しているなら、そちらの期限が先に来ます。共済金の貸付けの請求は「倒産」の事態から6か月以内です
  7. 5号(不況業種)だけは責任共有制度の対象です(8割保証)。号数によって扱いが違います(→【判断1】の囲み)

【判断5】ほかの手段と比べて、これが最適か

1号だけが選択肢ではありません。使える可能性のある制度を、性質と期限で並べます。

セーフティネット保証1号

信用保証(別枠・100%保証)です。期限は指定期間内に市区町村へ認定申請すること。まとまった運転資金が必要で、既存の保証枠が埋まっている、または枠を温存したいときに向きます。

経営セーフティ共済の共済金の貸付け

中小企業倒産防止共済の本来の機能で、無担保・無保証人の貸付けです。期限は倒産の事態から6か月以内。すでに加入していて、掛金総額の10倍(上限8,000万円)で必要額を賄えるなら有力です。ただし借入額の10分の1が掛金総額から控除されるため、実質的なコストがあります。

日本政策金融公庫等のセーフティネット貸付

正式には「経営環境変化対応資金」といい、保証ではなく直接融資です。民間金融機関との取引が薄いときに向きます。通常は「最近3か月の売上高が前年同期比5%以上減少」といった数値要件が入口ですが、特別相談窓口が設置された事象の影響を受けた場合は、数値要件を満たさなくても対象になり得ると経済産業省の資料に明記されています。取引先の倒産では売上そのものは落ちていないことが多いので、覚えておいてください。

自治体の融資あっせん制度

あっせん融資に利子補給・保証料補助が付くものです。1号の認定を取ったなら、上乗せとして使います(【判断3】参照)。

どれか一つを選ぶというより、期限の早いものから順に確認していくのが現実的です。共済に加入しているなら、まずそこから。6か月はすぐに過ぎます。

行政書士はどこで関われるか——正直にご案内します

まず、取引金融機関に相談してください。専門家に依頼するより先です。

1号の認定申請は、多くの自治体で金融機関による代理申請が認められています(千代田区も委任状の様式を用意しています)。融資を実行する側にとって認定書は必要な書類ですから、相談すれば代理で進めてくれることが少なくありません。メインバンクとの関係があり、売上や取引の明細も手元に揃っているなら、そのまま金融機関に任せて差し支えありません。費用もかかりません。

そのうえで、行政書士がお役に立てるのは次の3つです。いずれも、ご自身でできることです——申請書も資料も、ご本人が作って差し支えありません。手が足りない、あるいは組み立て方が分からないときに、代わりに手を動かす役だとお考えください。

  1. 金融機関に持ち込む「前」の資料づくり。これが一番面倒な作業です。行政書士法第1条の3第1項にいう「事実証明に関する書類」の作成にあたります。取引先の管理画面が閉鎖されて明細が取り出せない、締め日と入金サイクルから未精算分を再構成しなければならない——こうした場面では、この作業を終えないと金融機関との話が始まりません
  2. 制度横断の順序と期限の設計。1号/共済の6か月/公庫/自治体の特例措置を、どの順番で当たるか。これは行政書士に限った仕事ではありません。中小企業診断士や、取引金融機関の担当者に相談するのも有力な選択肢です
  3. 認定が拒否された場合の審査請求の代理。これは、行政書士に依頼する場合は特定行政書士に限られます(行政書士法第1条の4第2項。当事務所行政書士は付記を受けています)。もっとも、実際に使う場面は多くありません

ご相談いただく意味がある場合——取引金融機関との関係が薄い、借入れの経験がない/資料の段階で詰まっている(明細が取れない、金額を組み立て直す必要がある)/複数の制度を並行して検討したい/代替の取引先との契約、法人化など他の手続も同時に発生している。

ご相談いただかなくてよい場合——メインバンクとの関係が深く、明細も揃っていて、金融機関が代理申請してくれる。

頼まなくて済む方に、無理に頼んでいただく必要はないと考えています。必要なところだけ使っていただくのが、結果として一番早く資金にたどり着く道です。

資金繰りの判断材料づくりから、書類の専門家がお手伝いします

「未入金額を証明する資料が作れない」「銀行に持っていく一覧表をどう組み立てればよいかわからない」「1号の認定申請書類を作ってほしい」「区の融資あっせん制度と組み合わせられるか整理したい」——東京・千代田区のVille行政書士事務所では、取引先倒産に直面した中小事業者の皆さまの資料整理から行政手続まで、書類の専門家としてサポートします。破産手続への債権届出など法的対応が必要な場合は、提携の専門家と連携して対応します。

初回相談無料・オンライン対応可

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この記事を書いた人

村上 聡(Ville行政書士事務所 代表)

特定行政書士・宅地建物取引士。市役所勤務、法律事務所事務局長、不動産会社代表取締役等を経て開業。創業支援を軸に、法人設立・建設業許可・宅地建物取引業免許・古物商許可・運送事業など、中小・小規模事業者の許認可と経営サポートを手がける。

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