「不動産の仕事で独立したい。でも、専任の宅地建物取引士を置けるかどうかが不安で……」——宅建業(不動産業)の開業をお考えの方から、よくいただくご相談です。
なかでも多いのが、こんな声です。「自分(あるいは採用予定の人)は宅建士だが、別の会社の役員もしている」「土日は知り合いの手伝いをしている」「ほかにも仕事を持っているが、それでも専任の取引士になれるのか」。専任の宅地建物取引士に副業や兼業があると、免許は取れない——そう理解して、開業そのものをためらってしまう方も少なくありません。
結論から言うと、この理解は古い運用に基づくものである可能性があります。東京都では、令和6年11月1日から専任の宅地建物取引士の副業の取扱いが変わり、一定の要件を満たし、審査を経ることで、勤務時間外の副業が原則として認められるようになりました。本コラムでは、そもそも「専任の取引士」とは何かを整理したうえで、この運用変更で何がどう変わったのか、そして変わっていない一線はどこにあるのかを、東京都の運用をもとに解説します。
そもそも「専任の宅地建物取引士」とは
宅建業の免許を受けるには、事務所ごとに一定数以上の専任の宅地建物取引士を置かなければなりません(宅地建物取引業法31条の3)。その数は、事務所で宅建業の業務に従事する者5名につき1名以上の割合とされています(同法施行規則15条の5の3。従事者6名〜10名なら2名、11名〜15名なら3名……という具合です)。ここでいう「業務に従事する者」には、代表者・役員から正社員・パート・アルバイトまで、宅建業の業務に携わる人が広く含まれます。
そして「専任」とは、単に有資格者を名簿に載せておけばよいという意味ではありません。東京都の運用では、「専任」は次の2つの要件を満たすことをいうとされています。
- 常勤性:宅建業を営む事務所の通常の勤務時間に、常勤していること
- 専従性:専ら、その事務所の宅建業の業務に従事していること
言い換えれば、「そこにきちんと勤めていて(常勤性)、その事務所の宅建業に専念している(専従性)」人でなければ、専任の取引士とは認められないということです。名義だけを借りて数を合わせるような形は認められません。むしろ、実態のない専任の取引士を立てて免許を受けることは「不正の手段による免許取得」にあたり得、宅地建物取引業法では3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という重い罰則が定められています(宅建業法上、無免許で営業した場合や免許の名義貸しと同じ法定刑が定められています)。免許を受けた後にこうした実態が明らかになれば、免許の取消しなどの監督処分の対象にもなります。「専任は、数さえそろえばよい」というものではないのです。
なお、法人の役員(取締役など)が宅地建物取引士である場合には、その役員が自ら主として業務に従事する事務所については、その人が専任の取引士とみなされます(同法31条の3第2項。いわゆる役員みなし。ただし監査役や、役員でない従業員はこのみなしの対象外です)。また、専任の取引士が退職などで足りなくなったときは、2週間以内に補充などの措置をとらなければなりません(同条第3項)。小さな体制で開業する場合ほど、この「人」の設計は免許取得の要になります。
まさにこの専任性、とりわけ「専従性」との関係で長らく問題になってきたのが、副業・兼業の取扱いでした。
「副業があると専任になれない」は本当か——令和6年11月1日、東京都の運用が変わった
かつては、「専任の取引士は、その事務所の宅建業に専念すべき人なのだから、ほかに仕事を持つことは認められにくい」という、比較的厳格な見方が実務の感覚として広く共有されていました。「専任=副業は不可」というイメージは、この時代の運用に由来します。
ところが東京都は、令和6年11月1日から、この取扱いを見直しました。現在の運用では、専任の取引士が、事務所の通常の勤務時間外(定休日や夜間など)に副業をしようとする場合、一定の要件を満たすことを個別に審査したうえで、原則としてこれを認めることとされています(東京都住宅政策本部の運用。『宅地建物取引業免許申請の手引』の該当ページも令和6年11月1日以降の内容に差し替えられています)。
東京都は、認められる副業の具体例として、次のようなケースを挙げています(いずれも、宅建業の事務所の通常の勤務時間外にのみ行うことが確認できる場合です)。
- 法人で専任の取引士を務める人が、個人として行政書士などの事務所を営んでいる場合
- 専任の取引士が、他の法人の代表者を兼務している場合
ただし、2つめの「他の法人の代表者を兼ねる」ケースには、特に注意が必要です。東京都は、その他の法人において代表者が1人しかいない場合には、その人を「非常勤」とはみなせないとして、その法人の通常の勤務時間中に宅建業事務所の専任の取引士に就くことは認められない、としています。代表取締役のように、その会社に常勤していることが前提となりやすい立場だと、「勤務時間外だけの副業」という整理が実態として難しくなるためです。同じ「他社の役員」でも、非常勤の平取締役なのか、その会社の代表者なのかで、専任性を認めてもらうハードルは大きく変わります。実際の審査でも、宅建業の事務所と副業先とで勤務時間がまったく重ならないこと、そしてその副業がその営業時間の中だけで成り立つことを、裏づけ資料とともに示すことが求められます。
ポイントは、「専任性(常勤性・専従性)が確保されていること」を前提に、勤務時間の外での活動として整理できるかどうかにあります。事務所の勤務時間中はその事務所の宅建業に専念している。その上で、夜間や休日に別の仕事をしている——この形であれば、副業があること自体を理由に専任性が否定されるわけではない、という考え方です。
「副業=即アウト」と理解して開業をあきらめかけていた方にとっては、道が開ける運用変更です。そしてこの改正の日付(令和6年11月1日)を押さえておくことには、実務上の意味があります。古い情報のまま「副業があるなら無理」と説明する例や、以前の運用を前提にした記事もまだ見かけるためです。運用が変わった時点を根拠として示せれば、こうした食い違いにも落ち着いて対応できます。
ただし——変わっていない「認められない4つのケース」
運用が緩和されたとはいえ、どんな副業でもよいわけではありません。東京都は、次の4つのケースについては、変更後も専任の取引士の副業を認めないとしています。
- 副業が、他の法令に反する場合
- 副業のために、事務所への通常の通勤に支障をきたすおそれがある場合
- 同業他社(ほかの宅建業者)に、従事者として勤務する場合——利益相反の懸念が生じ、宅建業の秩序が乱れるおそれがあるためです
- 社会通念上、副業が宅建業の業務に支障をきたすおそれがある場合
とりわけ実務で問題になりやすいのが③です。副業先が宅建業の免許を持つ会社である場合、そこに従事者として勤務することは、運用変更の前後を通じて明確に認められません。「宅建の資格を活かして、よそでも少し」という発想が、かえって専任性を崩してしまう典型的なパターンです。副業を検討する際は、まず副業先が宅建業者かどうかを確認するのが出発点になります。
もう一つ押さえておきたいのが、今回認められたのはあくまで「勤務時間外」の副業だという点です。事務所の通常の勤務時間中に、他の法人の代表取締役や常勤役員として働いていたり、他の職業に従事していたりする場合は、従来どおり専任とは認められません。「勤務時間の内か外か」という線引きは、運用変更後もそのまま生きています。
手続き——副業のある専任の取引士に必要な「事前の備え」
勤務時間外の副業が認められるといっても、それは「黙って副業してよい」という意味ではありません。要件を満たしていることを、あらかじめ示しておく必要があります。
東京都の運用では、専任の取引士が勤務時間外に副業をしようとする場合、その副業が専任性に支障しないかどうかを審査するための資料をそろえて提出します。主に、次のようなものです。
- 略歴書(専任の取引士の職歴に、副業先を追記したもの)
- 誓約書(副業が、宅建業事務所での通常の勤務時間における常勤性・専従性に支障を来さないことを誓約する文書)
- 専任性(常勤性・専従性)が分かる公的書類
- 本業と副業とで勤務時間の重複がないことを裏づける資料
このうち「専任性が分かる公的書類」については、注意が必要です。従来、その代表例として挙げられてきた「健康保険被保険者証(健康保険証)」は、令和6年12月に新規発行が終了し、マイナ保険証への移行が進んでいます。これを受けて東京都は、令和7年末に確認資料の取扱いを改めました。現在は、マイナンバーカード(マイナ保険証)の表面、または資格確認書に加えて、その事務所で働き、報酬を得ていることが分かる書類(健康保険・厚生年金の標準報酬決定通知書、住民税の特別徴収税額通知書、役員であれば法人の確定申告書と役員報酬明細など)を組み合わせて提出する形が示されています。個人か法人か、役員か従業員かによって求められる書類は異なり、内容も見直されることがあります。実際の申請時には、最新の必要書類を申請窓口で確認しておくのが確実です。
いずれにしても、大切なのは「その事務所にきちんと勤めている」ことを客観的な書類で示せるという一点です。前の勤務先のままの書類や、別の会社での加入を示す書類では、その事務所での常勤性の裏づけにはなりません。こうした書類を過不足なく整え、副業の実態が4つの「認められないケース」に当たらないことを示して申告し、審査を受ける——ここが、専門家がお手伝いできる部分です。要件を満たしているのに、書類の不足や説明のずれで足止めされてしまうのは、もったいないことです。
ルールは動き続ける——「最新の運用」を追うことの意味
ここまで見てきた副業の運用変更は、宅建業免許のルールが現在進行形で更新され続けていることの一例にすぎません。
たとえば様式の面でも、令和7年4月1日から見直しが行われています。役員や政令で定める使用人(専任の取引士を除く)については、これまで「略歴書」に書いていた住所・電話番号・生年月日の記載がなくなり、代わりに新設された「代表者等の連絡先に関する調書」を提出する建て付けに変わりました。書類の様式が変われば、古い様式で用意した申請はそのままでは受け付けられません。
こうした変更は、大きく報道されるわけではありません。手引きの改訂や、行政庁のウェブサイトでの差替え文書を、その都度追いかけているかどうかで、準備の精度に差が出ます。「以前はこうだった」という理解のまま進めてしまうと、今回の副業の例のように本来であれば取得できる免許をあきらめてしまうことも、逆に古い様式で差戻しを受けることもあり得ます。最新の運用に合わせて設計することが、遠回りに見えて一番の近道です。
まとめ——「副業があるから無理」と決める前に
専任の宅地建物取引士をどう置くかは、宅建業開業の土台となる設計です。そして「専任の取引士に副業があると免許は取れない」という広く知られた理解は、少なくとも東京都では、令和6年11月1日を境に過去のものになりつつあります。勤務時間外であること、専任性が確保されていること、そして4つの「認められないケース」に当たらないこと——この条件を満たし、必要な書類を整えれば、副業を持つ人でも専任の取引士として開業の道が開けます。
当事務所は、代表自身が宅地建物取引士であるとともに、不動産会社(宅建業者)の経営に自ら携わってきた経験があります。専任の取引士をどう配置するか、常勤性・専従性をどう確保するか、副業のある人をどう位置づけるか——こうした宅建業の「人」にまつわる論点を、資格と経営の両面から、実務の感覚をもってお手伝いできます。
「副業があるから無理」と決める前に。宅建業開業のご相談を承ります
「専任の宅地建物取引士を置けるか不安」「宅建士に副業や兼務があるが、専任になれるか確かめたい」——東京・千代田区のVille行政書士事務所では、宅地建物取引業免許の取得を、事務所の要件確認から専任取引士の設計、保証協会への加入まで一貫してサポートします。代表自身が宅地建物取引士であり、不動産会社(宅建業者)の経営経験もある行政書士として、最新の運用にもとづき可否と段取りを整理します。会社を設立して始める場合は、定款の目的設計まで一体でお手伝いできます。
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参考資料
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第31条の3・第79条・第82条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の5の3)
- 東京都住宅政策本部「『専任の宅地建物取引士』の副業について」(令和7年12月19日一部改訂)
- 東京都住宅政策本部「宅地建物取引業免許申請の手引」
- 健康保険証の新規発行終了(令和6年12月)と、資格確認書・資格情報のお知らせへの移行については、厚生労働省の案内による
- いずれも2026年7月20日閲覧
【免責事項】本記事は2026年7月20日時点の法令・運用に基づく一般的な解説です。専任の宅地建物取引士や副業の取扱いは東京都の運用であり、申請先・時期・個別の事情によって異なります。実際の申請にあたっては、必ず申請先の窓口・手引き、または専門家にご確認ください。


















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